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東京地方裁判所 平成5年(ワ)1965号 判決

原告(反訴被告、以下「原告」という。)

株式会社 厚島

右代表者代表取締役

鈴木和恵

右訴訟代理人弁護士

西村真人

小澤治夫

被告(反訴原告、以下「被告」という。)

学校法人日本体育会

右代表者理事

米本正

右訴訟代理人弁護士

大西昭一郎

松村龍彦

主文

一  原告の本訴請求を棄却する。

二  原告は、被告に対し、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の各建物部分を明け渡せ。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じて原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

(本訴請求)

原告と被告との間に、原告被告間の平成三年一〇月一日締結の日本体育大学食堂業務委託請負契約に基づく契約関係が存在することを確認する。

(反訴請求)

主文第二項と同旨

第二  事案の概要及び争点

一  本件は、平成四年一一月一三日に被告が原告に対し、原告被告間の平成三年一〇月一日付の日本体育大学食堂業務委託請負契約(以下「本件契約」という。)の解除を通告し、日本体育大学構内の学校食堂(以下「本件学校食堂」という。)を閉鎖したのに対し、原告が本訴で本件契約に基づく契約関係の存在確認請求をし、被告が反訴において、右契約の解除により、原告は別紙物件目録(一)ないし(三)の建物部分(以下「本件建物部分(一)ないし(三)」という。)の占有権原を喪失したとして、所有権に基づく右建物部分の明渡を請求している事案である。本件契約の締結及びその内容、被告の原告に対する解除の意思表示の到達、本件建物部分(一)ないし(三)が被告の所有であること、右建物部分を原告が占有していることについて争いはないので、本訴、反訴を通じた争点は、被告による本件契約の解除の有効性の一点である。

二  基礎事実(認定に用いた証拠は括弧内に示した。)

1  原告は、食堂、給食センター、飲食店等の経営を主たる目的とする株式会社であり、被告は、学校教育を行うと共に、体育、スポーツの研究及び体育、スポーツの指導者養成を目的とし、そのために学校及び研究施設等を設置している学校法人で、日本体育大学は被告の設置した大学である。

2  平成元年一月九日、有限会社厚島(代表者は、原告代表者と同じ。)は、被告との間で、原告が本件学校食堂における食事及び飲食物の提供、販売等の業務(以下「大学食堂業務」という。)を行うことを主たる目的とする日本体育大学食堂業務委託請負契約を締結した(甲二号証の一)。その後、平成三年三月二五日に有限会社厚島は有限会社山口に商号を変更し(乙一四号証)、同年四月一七日、有限会社厚島と別に原告が設立された(甲九号証)。平成三年一〇月一日、原告と被告との間で実質的に右契約を更新する意味あいで本件契約が締結された。

3  本件契約の内容は、概要次のとおりである。

(一) 指定料は年額無料とする。

(二) 原告が大学食堂業務を行うに必要な施設、物件等は被告が無償で貸与し、大学食堂業務に関する経費についての原告被告間の分担区分は次のとおりとする。

被告負担分―施設費、什器備品費、光熱給水費、食器器具費、施設及び什器補修費

原告負担分―消耗品費、食器及び器具の補充費、配属員人件費、法定福利費、法定外福利費、保健衛生費、運営管理費、その他営業付帯経費

(三) 大学食堂の内容は覚え書きのとおりとする。

(四) 原告は被告の承諾なくして大学食堂業務に関するいかなる部分をも第三者に貸与若しくは利用させることができない。

(五) 解除事由は、①被告が大学食堂施設を廃止するとき②原告のやむを得ない事由が生じたとき③原告に不都合の行為があったとき(但し、③を除き三ヶ月の予告期間をおくものとする。)とする。

(六) 本件契約の有効期間は平成五年九月三〇日までとする。但し、期間満了の二ヶ月前までに双方から通告がないときは更に一年延長する。

4  平成四年一一月一三日、被告は原告に対し、本件契約の解除の意思表示をすると共に本件学校食堂を閉鎖した。

5  本件建物部分(一)ないし(三)は、被告の所有であり、原告は、本件建物部分(二)及び(三)にその所有動産を残置することにより占有している。また、本件建物部分(一)には、原告の意を受けて数名の者が被告の退去要求にもかかわらず寝泊まりを続けている。但し、本件建物部分(一)について、被告は、平成五年六月三〇日に原告を債務者とする明渡断行、債権者使用の仮処分決定を得て、同年七月三日にその執行を行った(乙一七号証)。

三  争点に関する当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件契約書中の解約に関する規定は、被告が一方的に有利になるように作成したものであるから例文的な意味しか有しない。

(二) 本件学校食堂閉鎖の際、被告は原告に対し、本件契約解除の具体的理由を説明していない。また、被告は、被告の一部の理事に対しては、原告代表者が暴力団から借金をし、本件学校食堂の権利(契約上の地位)を暴力団に譲渡しようとしているので、暴力団が乗り込んできて本件学校食堂を占拠する危険があるから契約を解除したという趣旨の説明をしている。しかし、原告又は原告代表者個人が暴力団から借金をした事実及び暴力団に本件契約上の権利(地位)を譲渡しようとした事実を含め、本件契約第一七条三号にいう「原告に不都合な行為があったとき」に該当する事実は全くないから、右事実を理由とする本件契約の解除は無効である。また、被告が本訴で主張している原告が本件契約上の地位を第三者に譲渡しようとしたという事実や原告代表者が原告の株を第三者に譲渡しようとしたという事実が仮にあったとしても、それは、右「不都合な行為」に該当しない。右事実が「不都合な行為」に該当するとしても、本件契約第一七条柱書の「解約にあたっては第三号を除き三ヶ月の予告期間をおくものとする」という規定は、第三号の場合、三ヶ月の予告は必要としないというだけで、無催告、無予告で即時一方的に解約することを認めた趣旨ではないから、無催告、無予告でなされた本件契約の解除は無効である。

(三) 被告は、本件契約を解除するにあたって、内部的に正当な諸手続をとっていない。すなわち、被告においては、学校食堂に関する事項については学生委員会において審議されることになっているから(学生委員会規程第二条六号)、契約の解除をする際には、まず、学生委員会において解除の可否について審議しなければならず、次に、学生委員会は、右審議の結果を運営協議会に報告し、そこでの協議を経なければならず(運営協議会規程第二条参照)、その後、協議結果を理事会に上程の上、そこで契約の解除の可否が議決されるべきこととなっており、右のような手続経過は、従前から慣行的にも行われてきたにもかかわらず、本件契約の解除は、かかる諸手続を履践することなく突如として行われたものである。したがって、本件契約の解除はこの点においても無効である。

2  被告の主張

本件契約は、原告代表者が日本体育大学女子短期大学卒業生であること及び同人が夫を失って同情すべき境遇にあったことから特に締結されたものであるから、原告が本件契約の契約上の地位を第三者に譲渡しようとすることや原告代表者が原告の株式を第三者に譲渡する等して原告の経営権を第三者に移転しようとすることは、本件契約の性質上禁止され、第一七条三号にいう「不都合な行為」に該当するものと解するべきである。本件において原告側に右のような行為が見られた以上、それを理由とする被告の本件契約の解除は有効である。

第三  争点に対する判断

一  本件契約は、被告において食堂業務のための空間及び施設をその使用の対価なしに提供し、原告において大学職員及び学生に対して合理的価格で良質な食事を提供することを目的とするものであるから、右の食事の提供という事務の委任(準委任)契約ということが可能である。しかし、右事務遂行のためには、原告において日常的な物的資材及び労働力を確保して食堂業務を営むことが必要であり、この事務遂行は当然に一定の資本投下と相当期間の継続を予定するにもかかわらず、この事務遂行に対する報酬も予定されていないことからすると、本件契約は、空間及び施設の提供及び食堂業務の遂行による利益とが受託事務の遂行と実質的対価関係に立つことによって成立する契約であると解される。したがって、本件契約の解約については、当然に賃貸借に関する規定が適用されるものと解すべきではないが、継続的な双務契約の実質を有することを考慮して、通常の委任契約のようにいつでも自由に解除するということはできず、当事者間の信頼関係を著しく破壊すると評価される作為(場合によっては不作為)があった場合に初めてそれを理由とする契約解除が可能になると考えるべきである。また、大学食堂が大学教育の場にあること、この食堂業務が学生、教職員という一定範囲の予測可能な大学関係者を顧客とすることを前提として、無償での空間・施設の利用という利便を提供するものであることに鑑みると、その委託、受託関係における信頼関係は、単に食事の提供の問題にとどまらず、大学運営と食堂運営との関係を含め、本件契約を締結した当事者の事情を総合考慮して判断するべきものといえる。そうすると、本件契約第一七条三号の「(原告に)不都合の行為があったとき」という解除事由も右のような信頼関係法理に基づいて解釈することができ、そのように解する限り、右条項は、原告の主張するような例文規定ということはできない。そして、本件契約第一七条三号にあたる場合に催告又は事前告知は本件契約上解除の要件とされていないし、右のような契約条項が無効であるということもできないから、本件契約第一七条三項を理由とする解除が無催告、無予告で行われたとしても当該解除は有効である。

本件契約が右のとおり当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であること、被告において、学校食堂を委託する業者の選定手続が設けられていること(甲五号証)から、原告が被告の承諾なくして、本件契約上の地位を移転することができないのは当然の前提といえる。また、平成元年に有限会社厚島が新たに本件学校食堂の委託業者に選定されたのは、有限会社厚島の経営者であった原告代表者が日本体育大学女子短期大学の卒業生であり、かつ、原告代表者自らが現場責任者となって運営にあたるという経営姿勢が買われたことによるものであること(乙五号証)、原告代表者が平成三年四月に有限会社厚島を休眠させ、原告を設立することにより実際上の契約当事者が有限会社厚島から原告に変更された際も被告において特に問題とされず、同年一〇月にこれまでの契約を実質的に更新する形で原告と被告との間で本件契約が締結されたことに鑑みれば、本件契約が法人に対する信頼ではなく、原告代表者個人に対する信頼を基礎においていることは明らかである。したがって、被告の承諾のない原告の代表者交代が禁止されているということも本件契約の前提であったというべきである。原告代表者においても本件契約上、契約上の地位の移転や原告代表者の交代が禁止されているということを認識していた(原告代表者供述)。

そうすると、本件契約上の地位の移転や原告代表者の交代を画策する行為は、当事者間の信頼関係を破壊するものといえ、本件契約第一七条三号の「不都合な行為」にあたることになる。

二  本件契約第一七条三号の「不都合な行為」の存否

1  被告が本件契約を解除する発端は、平成四年一一月に訴外伊丹康人が被告の理事兼本部事務局長事務取扱であった訴外寺田武男に対して本件学生食堂の営業権なるものの譲渡が可能であるかという照会をし、その際、原告代表者が訴外伊丹に対して本件学生食堂の営業権の譲渡の話をしていた旨の話を伝えたところにある(寺田証言)。本件契約の解除に至る主な経緯は次のとおりである。

2  訴外伊丹は、原告代表者の亡夫鈴木清之の慈恵医科大学時代の師であり、原告代表者との結婚の際に仲人をし、また、清之に目をかけていたこともあって、同人の死亡後は、その妻である原告代表者を助けようと考えて、原告代表者が経営していた割烹料理屋を自ら利用したり、客を紹介したこともあった(伊丹証言)。

平成四年八月一二日、原告代表者は、原告及び原告代表者個人のコンサルタントであった訴外宮川廣一の紹介した金融業者である訴外山川修から借入を受けるにあたって、物的担保がなく保証人が必要とされたことから(甲一五号証)、訴外宮川と共に訴外伊丹を訪ね、右借入の保証人になってくれるよう依頼し、その際、原告代表者又は訴外宮川が訴外伊丹に対して話した内容は争いがあるが、訴外伊丹は、とりあえず訴外山川と会ってみたいから連れてくるように言った(以上甲五九号証の一、伊丹証言)。

翌一三日、原告代表者及び訴外宮川は、訴外山川を伴って訴外伊丹を訪ねた。その際のやり取りについても争いがあるが、結局、訴外伊丹は、原告代表者個人の訴外山川に対する貸金債務を保証すべく、原告代表者個人の振り出した額面一〇〇〇万円の小切手二通に保証のための署名をした(以上甲五九号証の一、甲一八号証、伊丹証言)。

原告代表者は、訴外山川より、同月一四日に三〇〇万円、同月一七日に一四〇〇万円の合計一七〇〇万円を期間平成四年八月一七日から同年一〇月一五日まで(但し、期日延期の場合は話し合いによって決める)、利率年40.004パーセントで借り受けた(甲一五号証、甲五九号証の一、乙一五号証)。

平成四年一〇月一五日頃、訴外宮川が訴外伊丹に対して、訴外山川に保証人として返済するよう要求し、その翌日には、訴外宮川及び訴外山川が保証債務の履行を強く求めてきた。そこで、訴外伊丹はこの事件の処理を訴外古屋俊雄弁護士に依頼し、同月二四日には、原告代表者を訴外古屋弁護士の事務所に同道して、原告代表者から事情を聴取した(以上伊丹証言)。

訴外伊丹は、訴外古屋弁護士より、本件学校食堂の権利が譲渡できるものか否かを被告側に確認するように指示され、同年一一月四日頃まず、当時日本体育大学学長であった訴外綿井永寿を訪ねて右点について確認した(伊丹証言)。しかし、訴外綿井から、訴外寺田に直接問い合わせてほしい旨言われたため(伊丹証言)、訴外伊丹は、同月六日に訴外寺田に連絡を取り、同月九日に同人を訪ね、訴外伊丹が訴外山川から保証人の責任を追及されるに至った簡単な経緯を伝える中で訴外伊丹が原告代表者より保証を依頼された際、原告代表者が本件学校食堂の営業権を譲渡することによって資金を調達したいといっていたという話をすると共に本件契約上右営業権の譲渡は認められているのか否かについて照会した(寺田証言、伊丹証言)。なお、この時、訴外伊丹は譲渡先とか「営業権の譲渡」の法律的内容について具体的に言及していない(寺田証言)。

訴外寺田は、最終的に原告代表者が本件学校食堂の営業権なるものを第三者に譲渡しようとしていると判断し、その旨を被告の理事長及び日本体育大学の学長に進言したところ、被告の理事長により本件契約の解除が決定されたため(寺田供述)、平成四年一一月一三日に原告代表者に対して解除を通告した。

3  平成四年八月一二日及び一三日の原告らと訴外伊丹とのやりとりについて訴外伊丹は、一二日にまず、原告代表者より、本件学校食堂の権利を訴外宮川の斡旋で他の業者に四、五〇〇〇万円で譲渡するつもりであること、その際、原告内のある株主に手を引いてもらうために一時金が二〇〇〇万円ほど必要であり、その金を訴外宮川の友人が融資してくれること、右借入金は右譲渡代金から返済されることを説明され、次いで訴外宮川より本件学校食堂の権利は非常に魅力があり、東北等からもこれを狙っている人が多いこと、現にこの話を進めている相手がいるが、その人が外国に行っているので、帰国すればこの商談は急速に進むはずであることを説明された旨、更に一三日には、訴外宮川が商談の相手と一二日の晩に国際電話で話をしたから、この商談は速やかに進むはずだと説明された旨の証言をする。これに対し、原告は、原告代表者が本件学校食堂の権利を第三者に譲渡しようとしたこともないし、そのようなことを言ったこともないと主張し、訴外宮川が訴外伊丹に説明したのは、権利譲渡先の話ではなく、原告のスポンサーとなってくれるところの話であるという内容の甲五九号証の一及び原告代表者供述を援用する。

ところで、原告代表者供述によれば、右にいうスポンサーの支援内容は、原告に対して安く材料を納入すること、右代金の支払期日を長くすること、原告に対して資金援助をすることであるが、これに対する見返りは原告が銀行よりやや高めの利息を付して返済することのみである。しかし、右支援内容は、原告の受ける利益に比してスポンサーの受ける見返りがあまりに小さく不自然である。これに加えて、訴外宮川が接触していた相手方は、株式会社伯養軒、タイヘイ株式会社、株式会社東京グランドホテル、株式会社ニッコクトラスト、株式会社升本フーズ等いずれも食堂事業に関係している会社で(甲一四、六六号証)、とりわけ訴外宮川が交渉を最も進めていた相手である仙台の株式会社伯養軒は、首都圏への営業拡大に積極的であったこと(甲六六号証)、原告は設立からまもなく、とりたてて不動産等の担保価値のある資産もなく、営業成績も芳しくなかったことから、銀行に対する信用はまだ小さく、原告の運転資金は、原告代表者個人の借入によって賄われており(甲五九号証の一)、原告代表者個人の抱えていた負債は、原告代表者が最終的に自認するものだけをとりあげても約一億円で(甲六七号証の一、原告代表者供述)、原告代表者個人の主たる財産である自宅の土地建物(原告代表者供述)は、訴外東港土木株式会社への譲渡担保に供されていた(乙一二、一三号証)こと、右食堂業者の多くが訴外宮川の話に対して興味を示していたこと(甲一四、六六号証)に鑑みると、原告は、本件学校食堂の権利を第三者に譲渡するための交渉を訴外宮川を通じて行っていたこと、及び、原告側から訴外伊丹に対して本件学校食堂の権利の譲渡又は原告の営業譲渡といった話がされたことが認められ、スポンサーについての話であったとする前記甲五九号証に一の記載や原告代表者供述は、にわかにこれを採用することができない。そして、たとえ愛弟子の妻のためとはいえ、訴外伊丹が原則として弁済期が約二ヶ月後に設定されている一七〇〇万円の短期債務の保証をしたのは、弁済期までに主債務者たる原告代表者において返済原資の調達が可能であるとの説明をしたからと考えるのが自然であるから、訴外伊丹への保証依頼に際して、原告代表者らが、本件学校食堂の権利の譲渡等の話をした旨の前記伊丹証言は信用することができる。

4 そうすると、原告には、本件契約第一七条三号の「不都合な行為」があったと認められる。

三  本件契約解除の手続的瑕疵の存否

原告は、前記のとおり、本件契約解除は、学生委員会における審議、運営協議会の協議、理事会の決議を履践することなく行われたものであるから無効であると主張している。しかし、まず、学生委員会による審議及び運営協議会による協議が本件契約の解除の手続的要件であることを示す証拠はない。また、理事会は被告の業務を決定したり、被告の設置する学校等の管理運営に関し必要な事項を決定する権限を持っており(甲三号証、学校法人日本体育会寄付行為第一一条第一項及び第二項)、理事長はこの決議に従うべきである(民法五二条二項参照)けれども、そもそも本件契約第一七条三号に基づく解除権は委託業者の側に「不都合な行為」があれば被告に契約上当然に発生するものであるから、特に解除権の行使に先立ち理事会の決議が必要であるといったような手続規定がない限り、理事会の決議を経ない理事長の解除権の行使に、当該解除を無効とするような手続的瑕疵はないというべきである。そして、本件において右のような手続規定の存在を示す証拠はない。したがって、解除権の行使にあたって理事会の決議を経なかったことの当否については、原告の内部問題としては議論の余地があるかもしれないものの、本件解除が無効であるということはできない。

なお、被告が、原告が本件学校食堂の営業権を譲渡しようとしているという訴外伊丹からの情報の信憑性を吟味するにあたって、原告代表者から事情を聞いていないことや客観資料としては原告代表者の自宅の土地建物の登記簿謄本を取り寄せた程度である(寺田証言)ことは、本件契約解除を決める上での慎重さという見地からその当否が問題とされる余地があるものと思われるが、本件においては、先に判示したとおり結果的に右伊丹の情報の信憑性が肯定される以上、本件解除には実体的にも手続的にも法的な瑕疵はないというほかない。

四  結論

以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、被告の反訴請求は理由があるのでこれを認容する。

(裁判長裁判官富越和厚 裁判官天野登喜治 裁判官飛澤知行)

別紙物件目録

(一) 所在 東京都世田谷区深沢七丁目参参番地

家屋番号 参参番弐

種類 校舎

構造 鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下弐階付四階建

床面積 壱階 2887.72平方メートル

弐階 2921.14平方メートル

参階 2584.22平方メートル

四階 1316.88平方メートル

地下壱階 3263.26平方メートル

地下弐階 243.00平方メートル

のうち地下壱階の別紙図面中赤色線で囲まれた約550.30平方メートル部分。

(二) 右建物のうち地下壱階の別紙図面中青色線で囲まれた約16.31平方メートル部分。

(三) 右建物のうち地下壱階の別紙図面中緑色線で囲まれた約10.12平方メートル部分。

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